脳力開発は人間学であり行動科学です(182)

コンサルティングのテーマとしては、昨今増えているのが経営理念(企業理念)についてです。時代の変化に合わせて見直しが必要ではないか、という相談が多いのですが、理念(の言葉)が抽象的で分かりにくい、行動に移しにくいという悩みもあるようです。

 
 そう言えば朝礼などでの各社の訓示・指示を聞いていても、抽象的なものが少なくありません。例えば「お客様への気配りを大切に」と言われても、具体的にどのようにするのが良いのか分かりにくい、あるいは社員によって解釈や行動が異なることがあります。
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 そこで具体的な「行動指針」を作りましょうと提案をしたりしますが、脳力開発8つ目の指針は「行動のつながりで、具体的に考える習慣をつくろう」です。言葉や概念に流されてしまうのではなく、具体的な中身のある行動というカタチにしましょうということです。(写真はスローガンの一例として使わせていただきました)

 
 誤解のないように願いたいのですが、抽象的な言葉や概念が全て悪いとか、意味がないとか、あるいは使うべきではないと言っているわけではありません。言葉がなくては意思を伝えることもできませんし、分かりやすいスローガンも必要です。

 
 要はスローガン的なものだけではいけない、と脳力開発では言っているわけです。具体的な行動にすることによって、誰もが共有できるということなのです。みんなが同じ動きができる、それによって目指すところを実現できるのです。

 
 ですから会社の会議でも、抽象概念や言葉を振り回すだけの会議は意味がありません。目標や目的、方向性すなわち戦略を共有できたら、あとはしっかりと具体的な行動を討論すべきなのです。すぐ実行できる行動例が出てくれば、しめたものです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(181)

評価が厄介なのは、たいていの場合確定(的)事実に付随しているからです。何か事実があって、それに対して第三者が評価している、その評価を鵜呑みにしないまでも参考にすることがあります。評価を参考にしても振り回されないことです。

 
例えば、ある会社と取引しようとして調査すると、非常に利益率が高いことが分かりました。これは確定事実です。しかし、その会社の取引先などに聞いてみると、利益にシビアだとか、儲けすぎとか、取引条件が厳しいという声が聴かれます。
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 これらが評価です。客観的ではない、主観的な要素がたくさん入っています。こういうものの取り扱いを誤ると、判断を間違ってしまうことにもなりかねません。確定的でない要素を否定はしませんが、それを判断の土台にしてはいけないという意味です。

 
 
さて、判断をする際には事実だけでは材料が少なくて、判断できないということも起こります。そこで、いわゆる「よみ」とか「洞察」といった力が必要なこともあります。これも大事なものですが、前提としてできるだけ事実を集めることです。

 
 しかし、自分自身で集めうる事実には、量的にも質的にも限界があります。現在はネット情報が巷に溢れ、いくらでも集めることができるといいますが、ネット情報の大半は確定事実ではありません。そのことをわきまえておく必要があります。

 
一方では「分からないことはすぐに調べる」ことも必要、というわけで信頼できる人を柱としたネットワークを持つ、ということがこれからのキーポイントにもなるでしょう。知ったかぶりや勝手な決め込みを捨て、素直に耳を傾けることも大切です。

脳力開発は人間学であり行動科学です(181)

私の専門は「人材づくり・社員研修」ですが、それも含めて経営の相談やアドバイスを求められます。その際には、必ず現状を詳しく話していただきます。抽象的な表現ではなく、具体的な事実を例示していただくことにしています。

 
 卑近な例ですが、「たくさんクレームがきている」と言われるので「何件くらいですか」と聞くと、2件かな、3件かなと。「この商品はよく売れていて人気も高い」、しかし尋ねてみるとごく最近やっと売れ出して、まだヒットとまではほど遠い。

 
 つまり、話の中に印象や憶測、あるいは自分の希望みたいなものが入ってしまっている。そこで「確定的要素から出発して考える習慣をつくろう」という、7つ目の土台指針が重要になるのです。確定的要素から出発する、それが基本中の基本です。

 
 確定的要素から考えるとなれば、確定的要素とは何かということを分かっていることが重要です。客観的に確実なこと、というのが定義であるとすると、確定(的)事実、確定的法則、確定的可能性の3つがこれに当てはまります。

 
 この中で中心になるものは、言うまでもなく確定事実です。自分だけではなく周りも同じように認める事実だということです。この反対の事実を未確認情報と言いますが、独りよがりで事実だとするもの、あるいは自分はまだ確認していないものも含みます。

 
 では、確定的でない要素にはどのようなものがあるのでしょうか。評価、憶測、印象、仮定、思い込み、空想、そして上に上げた未確認情報などがこれに当たります。特に評価、いわゆる価値判断は意外に厄介なものなのです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(180)

さて、関連する立場をそれぞれ考えてと書いてきましたが、立場の中身は希望、あるいは利益ということになります。相手の立場に立ってということは、相手の希望していること、あるいは相手が求めている利益について考えなさいとなるのです。

 
 大切なことは、立場によって希望や利益は異なるということです。立場によって主張や意見、あるいは評価や目指す方向が違ってきます。同じであるよりも異なることの方が主流です。そうなると、立場同士のぶつかり合いが起こるのです。
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 企業や店舗ではクレーム処理が重要な課題になることが多いのですが、これも例えば店側の立場とお客様の立場とのぶつかり合いとして、どちらを優先に考えるのか大きなポイントになるでしょう。一方の立場だけ、特に店側の立場だけで主張してしまうのは問題ですね。

 
 最近はステークホルダーという言葉がよく使われますが、企業を取り巻く「立場」はとっても幅広いことが分かります。単に売る側と買う側だけではない、様々な立場に取り囲まれている、言い換えればそれだけ多くの視点・角度が存在するということです。

 
 また、自分自身のことを考えても様々な立場を持っていることが分かるでしょう。会社では社長、家では夫であり親でもある。お店に行けばお客様など、その立場によって同じ問題に対しても意見が異なってくるという、体験をされていませんか。

 
 こういうのは日常の中で大いに訓練になります。報道番組の中で意見が出された時、それはどのような立場に基づいて述べられたものか、考えてみるといいでしょう。そして自分ならどう考えるのか、それは自分の立場の点検にもなるというわけです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(179)

私は現役時代、とくに親会社で企画開発を担当していた時は、何に対しても必ず反対意見を述べる「あまのじゃく」でした。為にする否定もなかったとは言えませんが、必ず反対側のことを考えてみるという習性ができていたようです。

 
 ですから販売会社に出向して販売会社の経営を任された時には、まずそれまでやっていたことを否定してみることから始めました。もちろん以前の通りにやった方が良いと判断すれば、反対意見はすぐに取り下げました。しかし反対から見ることで微修正もできました。
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 要は一方からではなく、必ず全体・全面を見よということになります。しかし両面のどちら側かが主流であって、他方は主流でない、支流あるいは枝葉ということです。主流でないものに振り回されてはいけません、まず両面とも見ることです。

 
 両面思考と並び、重要な思考姿勢は多角度思考です。「立場・観点を整理し、多角度から考える習慣をつくろう」という指針です。企業や店舗などでよく言われるのは、自社の立場や都合ではなく、「お客様(あるいは消費者)の立場で考えては」という表現です。

 
 企業で考えますと、社長の立場と社員の立場などというのもありますし、あるいは営業の立場と工場の立場、開発の立場などというのもあるでしょう。家庭の中では親の立場と子供の立場、あるいは例によく挙がるのが嫁と姑の対立関係などがあります。

 
 大事なことは、社長の立場を取り上げる際には、必ず社員の立場も合わせて取り上げるということです。同様に、嫁の立場を取り上げる際には姑の立場や夫の立場なども、同時に取り上げて考えることが必要なのだとなります。

脳力開発は人間学であり行動科学です(178)

指針のその5は両面思考です。すなわち、「常に両面とも考え、どちらが主流かも考える習慣をつくろう」という指針です。両面思考の反対は片面思考ですから、対比的に言うと「片面からだけ考える習慣はやめましょう」となります。

 
 ではその片面思考とはどういうことなのでしょう。文字通り物事の一面、片面だけを見ておしまいという思考習慣です。人の顔だって目鼻口のある方が表側だとして、後ろからだけ見える面も、あるいは横顔だってあるわけで、全部揃って人の顔です。(写真は阿修羅像)
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 片面思考の人は何かの情報に接すると、その情報があたかも全てのように感じてしまい、それがごく一部や局部だけを指していることであっても、さも全体や全面を示しているような気になってしまう。あるいはそのことで一喜一憂してしまいます。

 
 最も大事なポイントは、両面とも事実だということです。これはあらゆる物事には両面があると言い換えてもよいと思います。すなわち、表があれば裏がある、上があれば下がある、右があれば左もある、勝つ方があれば負ける方があるのです。

 
 ところがこんな当たり前のことが、日常生活の中で抜け落ちてしまっていることが少なくありません。自分の主張している事実に固執してしまったり、逆に相手のいっている主張事実を否定したりして、聴く耳を持たないといった態度に出てしまいます。

 
 そういったことを避けること、つまり両面思考を土台習慣としてしっかりと築いていただきたいのです。何に対しても、必ず両面を見ること、両方を必ずセットで見たり考えたりすることを心掛け、例えムリをしても実行することなのです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(177)

青年社長は、それでも先代の意見も聞こうとして企画書を示しましたが、父親はただ一言「ダメだ」というだけです。社長はこうなったら見切り発車だと思いましたが、金庫は相変わらず父親が実権を握ったままで、兵糧がなければ何もできません。

 
 何度か説得を試みましたが、どうしても首を縦には振ってもらえません。ついには言い争いになってしまい、社員はその間にはさまって右往左往です。そんな状態の中で、私に相談をいただいたので、早速提案をすることにしました。
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 その提案とは「実態を把握する」ということです。どういうお客様が買っていただいているのか、買っていただけていない年代や客層はあるのか。買っていただいていない方は、何を望んでいるのかなど、2ヶ月かけて実態調査を行いました。(写真はイメージです)

 
 実態調査をしてみて驚いたのは社長自身でした。自分が考えていた姿とは大きく異なっていたのです。そのまま自分の企画を押し通したとしたら、かなりの確率で失敗したでしょう。しかし、同時に父親である先代社長の感覚ともいくらか違っていました。

 
 違っていましたが、これまで代々やって来たことを今後も軸に据えてやるべきことが分かりました。先代の意見を聞きながら、作り直した将来計画は当然に先代にも異論がなく、実際の推進者は後を継いだ社長自身と理想的な形になったのです。

 
 中心・骨組みを現状の実態を土台に考える、この当たり前とも言えることをキチッとやり抜くこと。その上での戦略・戦術づくりを進めていきましょう。大事なことは、実態を土台にした根本の決心を戦略としてハッキリ決めることです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(176)

現状をしっかりとつかみ、要因(原因)分析も深く行う、こうやって中心点をつかみ出す作業が終わったら、次に「中心点を決める」計画段階に入っていきます。この方向付けを戦略を呼んでいますが、目的や目標といった根本レベルの考え方です。

 
 この戦略に対して、目的や目標を達成する手段あるいは方法のことを、戦術と呼んで区別します。脳力開発の提唱者である城野宏は、『戦略は大胆に、戦術は細心に』と教えました。戦略は根本方向を決めること、二者択一なので大胆に決めるのです。

 
 一方、具体的な手段や方法は、細かく手順を決めていくものですから、途中で修正することもいとわないものですし、また場合によっては二の矢・三の矢も用意しておくべきものです。環境や条件の変化への対応は、この戦術レベルでなされるものです。

 
 一つの事例をご紹介しましょう。あるローカルな和菓子屋さんのお話ですが、その地域ではけっこう名の知られた、創業も100年近い名店でした。父である4代目社長から後を引き継いだ5代目は、まだ40歳代後半の意気軒昂な青年でした。Photo

 
 先代社長は堅実経営が信条で、売上利益を大きく伸ばすことはなかったものの、経済状況が悪い時期にも左右されることはなく、ずっと無借金経営を貫いてきました。5代目の青年社長は、それをこれまで少し物足りなく思っていました。(写真はイメージです)

 
 和菓子だけでなく洋菓子も含めた新商品の展開や、イベント販売と言った新しい試みも考えてきたのですが、これまでは先代の反対に遭い、思うようにできませんでした。しかしこれからはと、意気込んで急ぎ企画書としてまとめました。

脳力開発は人間学であり行動科学です(175)

前向きに妥協していくのが脳力開発的な脳の使い方、その基本は「自分が先に変われ」という土台習慣にあります。自分が変わっていくことによって、相手もそれに気付いて変わっていく。逆にそれがなければ、相手の方も全く変化してこないでしょう。

 
 相手を変えたい、そう思うことが誰でもありますね。身近なところでは子供や自分の伴侶を変えたいと思うことも、一度や二度ではないと思います。結論から言えばそれは不可能です、他人(と過去)は変えられないというのが基本原理です。

 
 だから、自分が先に変わるのです。子供の変化なら、もっと劇的に見ることができます。親が変わることによって、子供がみるみる変化していく事例は、枚挙のいとまがありません。まず自分が変われ、すぐにそしていつも実行して参りましょう。

 

指針のその四は、「常に中心点を明らかにし、中心・骨組みで考える習慣をつくろう」です。脳力開発では、とくに「つかむ」作業と「計画する作業」と呼んでいます。この前半の「つかむ」ことの重要性は、ドラッカー氏も繰り返し強調しています。Photo

 
 ドラッカー氏は、『未来を語る前に、今の現実を知らなければならない。現実からしかスタートできないからである。』と述べていますが、現状の把握と原因分析がカギになります。ここをしっかりやっていないと、後半の部分は意味がなくなります。(写真はネット上より拝借しました)

 
 ところが、色んな企業を見ていますと、経営理念や経営計画といった後半の部分に力を入れ、まことに素晴らしい内容のものを作成されている例を多く見かけます。しかし、残念なことに計画倒れになってしまっている事例も、たくさんあるのです。

脳力開発は人間学であり行動科学です(174)

では、希望や意見がぶつかり合った時、法律問題には関わらない中で、つまりごく普通の社会生活や会社、組織の中ではどうやっていけばよいのでしょう。他人のそれはいざ知らず、自分の希望や意見をまず2種類に分けてみましょう。

 
 つまり一つは「容易に譲らない」ということで、これは強い希望や信条・信念というものです。自分の根本に関わること、大げさに言えば生き方の問題ですので、そうは簡単に譲れません。しかし、それだけのものに限るということでもあります。

 
 その反対の「譲っていい」希望や意見は、その他多数です。つまり大半はこの中に入ってくるわけで、実際になるべく譲るようにしていけばいいのです。それを頑固に譲らない姿勢をとってしまうと、相手と真っ向からぶつかることになっていくのです。

 
 原則以外を譲ることを「妥協」と言います。妥協するなんて嫌だとおっしゃる方もいらっしゃるようですが、妥協とは相手との間に協調点を設けるということです。その代わり、原理原則の部分は原則として譲らないという信念を保つことです。(写真は「降伏」のイメージ)
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 原則を曲げてしまうことは妥協ではなく、「降伏」といいます。妥協という対処は降伏とは全く違う、本質的に異なるものなのです。降伏すると自分は支配され、相手が支配者という、何とも不安定で非正常な人間関係をつくってしまうことになります。

 
 妥協点や協調点を探り合いながら、調和の関係を維持し、協力関係を作り上げていく、これこそが望ましい人間関係です。自分も活かされ、人も活かすという、いわゆる「Win-Win」の関係を築き上げていくことこそ、大切な脳力開発だと言えます。

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